貧困と学校の役割

7月9日(日)、子どもの貧困を視点とした子育て・子育て支援者連絡会議主催の「未来が変わる働き方」と題する講演会が宮崎大学でありました。その概要と感想です。
槙泰俊講演会 ポスター

講師は、認定NPO法人 Living in Peace代表の槙泰俊(しんてじゅん)氏です。氏は、貧困という社会問題をどうとらえるのか、そのなかでこれからの働き方をどう考えるのかを、主に学生に向けて話をされました。

資料として使われた日南市のアンケートは、とても示唆に富む内容でした。経済格差が子どものこころに与える影響を分析しているのが、このアンケート結果の特徴です。(グラフはすべてこのアンケート結果から)

日南市 子どもの未来応援プラン (日南市ホームページ内PDF)

「自分が好きだ」と答えた子どもの数が、貧困世帯に少なかったということを事例に、「貧困」は決して、単に経済的な格差を指すものではないことを指摘されました。
アンケート結果 1
アンケートからは子どもたちのこころに与える影響が、実は、とても深刻だという実態が浮かびあがってきます。当然、将来に夢を持つ、あるいは希望の持ち方も違ってきます。

オックスフォード大学の苅谷剛彦教授の指摘された「インセンティブ・デバイト(学習意欲の格差)」を思い出しました。

学校での人間関係(学級経営)が貧困世帯の子どもたちに大きく影響することは、今回、データとして初めて明らかにされたように思います。

自分の存在を喜んでくれる人がいることは子どもの心にとてもよい影響はを与えるといわれます。何かで挫折しても、自分のことを大切に思ってくれる親や大人が身近にいると、立ち直りも早いといわれます。
アンケート結果 2

学校(学級)で先生からほめられ、一目置かれる存在になることや、何か特技を持っている子どもは、自己肯定感も芽生えやすく、努力や忍耐力も培われていきます。

子どもの貧困対策として、親支援や学習支援、物資支援などが考えられがちですが、学校(学級)での人間関係作りがとても有効であるという視点は今まで欠けていたように思います。
アンケート結果3

ちょっとした声掛けだけで子どもたちは救われるはずです。貧困の子どもたちへの対応・対策が大学での教員養成や教職員研修でテーマにする時期に来ていると思いました。

他のアンケート結果では医療機関にかかることができない子どもたちが非貧困世帯の5.12倍いたということです。風邪を引いても、虫歯になっても、病院に行けない子どもがいることは大きな問題です。行政が早急に取り組まねばならない問題でしょう。
アンケート結果 4

このことは子どもへの関心や予算への配慮が足りないことの現れでしょう。先進諸国でも日本が遅れている実態は様々なデータで明らかにされています。

これは少子高齢化のなかで、若い人の投票率が低く、政治家の目が投票率の高い高齢者に向けられていることと無関係ではありません。

子どもを持つ親やこれから親になっていく若い人が政治に関心を持ち、賛同できる政治家の活動を支援する、そんな状況を作っていかねばならないでしょう。政治家の活動を注視し、SNSやクチコミで話題を広げるなど、そんなことから始めたらと進言されました。

ブームとなった子ども食堂にも話題が及びました。

ブームが一段落して課題も明らかになってきました。子ども食堂が貧乏人の行く所というレッテル貼になり、人が集まらない地域も出始めているということです。

ひとり親や貧困世帯だけに限らず、他人に助けてもらうのが恥ずかしいという意識があり、他人に施しを受けるのはイヤだと思う人も少なからずいます。

決して当事者に「困り感がない」のではなく、困ってるのに困ってると言えない、言い出せない雰囲気があるのです。

すべての人に開かれた食堂、子ども食堂を名乗らない地域での食支援、貧困ということばを出さない案内、支援する側とか、される側とかに分けない関係づくりなど、いろいろな配慮が必要になってくるということでした。

最後に、若い人たちに向けて働き方のヒントを話されました。

現在ある職業の半分以上がAIに代わるといわれ、年功序列、終身雇用は今や死語となりつつあります。大企業も安泰ではありません。

10年単位で仕事を見直す、転職も当たり前の社会になるだろうといわれました。当然、変化することを恐れない心構えが必要となってきます。

長時間労働等、働き方改革も叫ばれていますが、それだけ日本の労働環境が厳しくなっているということでしょう。

これからは働く上で副業を持つことが大事になってくるということでした。複数から収入を得ることを意識せざるを得ないのです。

そのためには楽しみながら仕事をする、資格を取る、学び続けることが、働く上で欠かせない要素になるということです。社会貢献、地域貢献などボランティア活動も、働くことと同じ価値を持つことになるでしょう。

経済格差が広がると、世の中が感情的になる傾向にあります。「衣食足りて礼節を知る」ということが、やはりあります。基本的な生活レベルが落ちているのでしょう。

世界的に民主主義が危うくなっています。AIを駆使して世論操作し、感情を作り出すといった情報操作が増えてきている印象もあります。

これからは、必要な情報を選び取る「情報リテラシー」や、自らの生活基盤を築く「資産リテラシー」など、自らの頭で考えることが必須になってくると締めくくられました。

貧困世帯への学習支援は、やはり学校との関りが基本となります。スクールソーシャルワーカーもそうですが、学校との協力をいかに進められるか、学校での取り組みをいかに支援できるかが課題だと思いました。(報告:亀澤)